幸せな結末

Happy End

ビー・オールライト

まず先週の土曜日、初めての野音で初めてのceroを観た。雨に打たれながら聴く「夜去」は特別な瞬間であった。「Contemporary Tokyo Cruise」をアンコールで聴くまで失念していたのには驚いたが、それほどいい曲ばかり演奏されたということ。「スマイル」「大停電の夜に」とかもう最高。
水曜日。初めてのZepp Tokyo小沢健二のツアー初日。オザケンは実在していた。想像以上にチャーミングでエネルギッシュな人であった。新曲を7曲聴いた。高揚していたため咀嚼できるだけの時間と余裕はない。しかし「フクロウの声が聞こえる」はまだ体内にしっかり残っている。他の新曲、特に『LIFE』に入っていそうな曲なんか本当に最高だった。音源化を何よりも望む。それが出来ないなら、日本の大衆音楽史にとって大きな損失となる。大袈裟でなく本気で。旧譜から「大人になれば」を演ったのはすごく嬉しかった。今回のツアーでこの曲を演る意味は大きいのではないか。やはり父親になったことが影響しているのだろうが、そういうのも含めてオザケンは今を生きる作家であると感じた。
金曜日。初めての渋谷WWWでスカートのレコ発ワンマン。30曲ほどの名曲を次々投下。気付いたのだけどあまりノッている人がいない。まぁceroオザケンに比べれば仕方ないが、ちょっと距離を感じた。しかし自分もライブ行き初めはあんな感じだったように思うし、そう考えると僕が変わったのだろうか。ライブ終わりにシブツタでレアなCDを借りまくる(宝の山か、ここは?)。シモンズとキュアーを同時に借りる人なんてそういないよな。

最近発見したのはaikoのすごさ。これぞJ-Popの極致というか、理想形だ。ソングライティングはとてもユニークではあるのだが。「かばん」のサビのメロディ恐ろしい。『夏服』は日本の『モーニング・グローリー』。

岩井俊二リップヴァンウィンクルの花嫁』で黒木華森田童子を歌うシーン(最高)を観てからというもの、森田童子の歌にやられた。このタイミングでオリジナル・アルバムが再発。素晴らしい。今年の個人的トレンドだろうな。

乃木坂46のセカンド・アルバムは全然盛り上がらない。なんだろうな。「君の名は希望」作家陣による「きっかけ」が人気らしいが、冗談はほどほどにしてくれ。何番煎じだよ!「君の名は希望」は一曲で十分だ。もう既存のファンを喜ばせることに終始したって意味ない。もっと外に向けていかないと、本当に妹分に追い越される。
その妹分にさらに新しいメンバーが加わった。ひらがなけやきの11人。以前、平手・長濱に比べられてしまうのが酷だと書いたが、それに匹敵するかもしれない逸材が入ってくれた。名前は柿崎芽実。なんと素敵な名前だろう。平手も長濱も名前からして特別な感じはしているから柿崎も相当期待できる。
さて欅坂46のセカンド・シングルがそろそろ楽しみだが、予想で言えばまたシリアス路線だろうと思う。ただし「サイレントマジョリティー」ほどメッセージ性は重くないようなポップス。とにかくこれからの数作は本当に大事。1stのアドバンテージを生かすも殺すもプロデューサーの手腕次第である。

Can I Kick It?

退屈なアイドル・シーンに風穴を開ける欅坂46がデビューして数日が経ったが、その衝撃は思いの外大きい。iTunesで総合1位をまだキープしている。個人的には、最近3年間で発表された曲の中でトップである。
5曲あるカップリングにも駄作がない。かなり良い曲が3曲(「山手線」「渋谷川」「乗り遅れたバス」)、普通に良い曲が1曲(「手を繋いで帰ろうか」)、普通が1曲(「キミガイナイ」)といった具合だ。「キミガイナイ」、あまりにも説明的すぎるBメロの歌詞には苦笑してしまうものの、メロディーは結構ユニーク。「手を繋いで帰ろうか」秋元康というおっさんからこのようなラブリーで多幸感溢れる歌詞が出てくることは色んな意味で尊敬できる。しかし彼の中にあるオシャレワードの少なさは相変わらずだ。乃木坂46に大貢献しているAkira Sunsetの作曲だが、早口になりがちな、言葉を詰め込むようなメロディーからそろそろ脱却した方がいいのでは。底が見えてきている。長濱ねるをフィーチャーした「乗り遅れたバス」は90年代の古き良きJ-POPを思い出させる。ユニット曲だがサビでソロになる曲なんて、秋元P系では聴いたことがない。舌足らずなねるの声は特徴的で、透明感のある他のメンバーの声質と全く違っていてそのギャップが面白い。「山手線」は薬師丸ひろ子の「セーラー服と機関銃」を意識したような昭和歌謡のスタンダードといったイメージで、歌詞も含めて完成度が高い。そしてフォーク・ソング「渋谷川」。名曲と呼ぶに何の躊躇いもない。この2曲で7インチを切るべきだ。間違いなく売れる。

乃木坂の運営で培ったノウハウを総動員した、ソニーの本気がこれだ。しかしながら、乃木坂のことを考えると複雑ではある。当然、伸び代では欅坂が圧倒的で、これからファンを増やすためにいい曲が妹たちに流れていくことは、ビジネス的に考えても致し方無い。乃木坂のメンバーが欅坂のデビューに際してほとんど触れていないことが逆にメンバーの不安感、焦燥感を表しているように思う(特に、結成後すぐはよく話題にしてた真夏さん)。こんなすごい曲とMVを見せられたらビビるに決まっている。思えば、初めて乃木坂は追う立場から追われる立場になったのだな。そう、欅坂は乃木坂のカウンターである。乃木坂はどう転んでもドブ川に入ってジャケットは撮らない。裏を返せば、乃木坂も欅坂のカウンターとして迎え撃つということが求められる。そういう意味で15thは重要だ。乃木坂ファンや世間の注目は欅坂に流れているのは間違いない。そんな中で、やっぱ乃木坂すごいねって思わせられるか。「サイレントマジョリティー」の路線で一発かましてほしいね。正直ここ数作は、楽曲もグループとしても全然ワクワクしない。個人個人はすごいけど。とにかくこんなところで簡単に追い抜かれてはいけない。YouTubeの再生回数では、欅坂の方が後に公開されたにも関わらず軽く置き去りにされたけど。乃木坂は静かな負けず嫌いが多いイメージなので、バチバチ感はないと思うが内心かなり燃えているかも知れない。というかそうであってほしい。

サイレントマジョリティー

語られるべきことが多すぎる。まずは、楽曲について。ここまで熱病のように発売前の曲を繰り返し聴いてるのは、tofubeats「水星」(2012)以来かもしれない。

欅坂46のデビュー・シングルが、言葉に出来ないほど素晴らしい。想像の遥か上を来た。

乃木坂46制服のマネキン」と比べられがちな本作は、たしかにBPMやダークな雰囲気を持つダンス・ミュージックといった共通点を見出すことができるが、妹分のデビュー作はそれよりもさらに前進している。「制服のマネキン」にとっていいアクセントになっていたのは間奏のフラメンコ風のギター・ソロであるが、欅坂の方にはこれもやはりフラメンコ風のハンド・クラップが、ほぼ全編にわたって鳴らされ、さらに複雑なリズム感も相まって「異国感」が強まることで、大きなインパクトを聴く者に与える。そしてすごいのがサビのメロディーだ。逆立ちしたってこんなメロディーは思いつけない。地を這うような、ともすれば暗いメロディーだが、そこには言葉にならない強い意志や感情をはっきりと感じ取ることができ、心を揺らす。本当にアイドルのデビュー曲なのか。誰でもそう思うに違いない。まさに異質の完成度といえる。少なくともこの数年の間に出たアイドル楽曲、さらには邦楽ポップスの中でも屈指の傑作であろう。

前置きが長くなってしまった。本当に言いたいことは、21世紀生まれのアンファン・テリブルについてだ。
はじめからこの子には何かがあると思っていたが、まさかこれほどの物を持っているとは思わなかった。

その名は、平手友梨奈

現状、「サイレントマジョリティー」の楽曲、振付、MVが求めている世界観を体現できているのは、この14歳のセンターだけである。小林由依鈴本美愉もなかなか良いが、平手が圧倒的すぎる。目も当てられないメンバーも、いる。というか、仕方ないことだ。なぜならこの曲は、完全に平手友梨奈という天才に寄せたものだからだ。そうとしか思えない。MVで他のメンバーの映る機会が少ないという声もあるし、その通りだと思うが、これだけのものを見せられたら何も言えないだろう。他のメンバーとのポテンシャルの違いは歴然だ。はじめからこれほどの「基準値」を見せられてしまい、酷だとは思うが、もちろんまだデビュー前。これから全メンバー分のストーリーを楽しもうではないか。それもまたアイドル・グループを追う醍醐味なのだから。

デビュー作のセンターとして先輩である乃木坂46の生駒とは、タイプが異なる。生駒はその中性的なルックスとどこか浮世離れした存在感を持ちながらも、他のメンバーをもしっかり引き立たせるタイプである。平手の場合、周りを霞ませるほどの強いオーラを放つタイプ。ステージに出る前の不安そうな表情から、あの鬼気迫る別人のような顔。さらには、ソロ曲「山手線」で見せた山口百恵のような憂いのある表情。大きなことを言ってしまおう。オーラのポテンシャルという一点のみについては、乃木坂の全てのメンバーですら及ばないところにあると。

遅れてきたもう一人のエース、長濱ねるについても少し。
彼女もまた、平手とは別のベクトルを持つ天性のアイドルである。「正統派」といってもいい。その「シルエット」がもうすでに完成されている。アイドルになるべくして生まれたような子だ。加入した背景には複雑なストーリーもあり、それで一曲書かせてしまえる(「乗り遅れたバス」)ほどだから、やはり特別だ。数カ月後の人気ではもしかしたらトップになっているかもしれない。

当面はこの二人が欅坂46の中で核になっていくと思われる。ひらがなけやきに逸材がいるとしても、この二人と比べられてしまうのはつらい。それは1期が強すぎる乃木坂の3期生にも同じことが言える(あちらは若さが大きなアドバンテージにはなりうるが)。

他のメンバーについても書きたいことがたくさんあるが、それは4月6日以降にしようと思う。久々に熱くなってしまった。今年は欅坂の年になるかも知れない。彼女たちのおかげで少なくともあと3年はまだ楽しめる。

羽根の記憶

その日は幸いにも、ニュースなどではなく、彼女がそっと上げたブログを見て知ることが出来た。iPhoneでブログタイトルを見て、微かに心に暗いものが立ち込め、開いた瞬間ブラックアウトした。スクロールするのだけど、頭は真っ白だから何一つ読むことが出来ない。とりあえず閉じて、レオス・カラックスの傑作映画『ポンヌフの恋人』の続きを観ていたのだけれど、内容が頭に入ってこない。パソコンの画面にはいつも通りツイッターのホーム画面が映しだされている。だがタイムラインにもトレンドワードにもその情報はない。

何かの間違いじゃないだろうかと、本気で信じていた。
現実感が全く無かった。

しかしその数分後、「まいまい卒業」の文字がトレンドに上がってきた。

多くの人が言うように、深川麻衣はずっと乃木坂にいてくれるものと思っていた。そういう、根拠の無い安心感が、彼女にはあった。いろんな類の「悪い予感」を、全く感じさせない人なのだ。だけど現実は違った。僕らが思っている以上に、彼女はシビアで、挑戦的で、ハングリーだってこと。思い出してみよう、彼女は専門学校を出るも芸能界への夢が諦めきれず上京し、バイトしながらオーディションを受け続けていた泥臭い人なんだってことを。やさしい聖母で居続けるのではなく、泥臭い深川麻衣にもう一度戻ることを選んだ。その一歩を踏み出したことを僕は尊敬するし、尊重したい。

伊藤かりんが、以前「思い出用に」動画を撮っていたまいまいの話を書いていて、彼女の笑顔とか、裏に隠した哀しみとかがいっぺんに想像できてしまい、とても泣けた。

ある意味この卒業は、同じ年長組である白石や橋本が抜けるよりダメージが大きいだろうと予測する。
道しるべではないけれど、いつでも変わらずそこにある、北極星ような存在だったから。
それが失われるのはひどく寂しいし、不安だ。
グループ内の和が乱れないかなんていう、あらぬ心配をしてしまう。(もちろん大丈夫だろうけど。)

だが、だからこそこのグループは次へ進めるのではないだろうか。
さあ、北野日奈子のブログを見るべきだ。彼女の健気さが、なんと頼もしいことよ。
そう、まいまいが与え続けたやさしさは、必ず残されたメンバーひとりひとりに受け継がれていくし、その力がまた乃木坂46を次のステージを押し上げていくのだ。

Sounds of 2015

2015年よく聴いた12,3の曲たち(2014年以前リリース)。



Gal e Caetano Veloso | Domingo | 1967
薬師丸ひろ子 | あなたを・もっと・知りたくて | 1985
Lamp | さち子 | 2014
Rahsaan Patterson | Where You Are | 1997
John Lennon | One Day (At a Time) | 1975
The Doors | Moonlight Drive | 1967
トワ・エ・モワ | 或る日突然 | 1969
久保田早紀 | 異邦人 | 1979
XTC | Thanks for Christmas | 1983
Tracey Thorn | Small Town Girl | 1982
Prince | With You | 1979
Sergio Mendes & Brasil '66 | Going Out of My Head | 1966

見ると解るように、ボサノヴァに始まりボサノヴァに終わる2015年。そう言ってしまうにはいささか強引であるが、間違ってはいない。まず渡辺亨『音楽の架け橋』という書物の影響が、年始めに色濃く出ている。ブルー・ナイル、カエターノ・ヴェローゾを始めとして、年の後半にはベン・ワットの再評価やそれに伴うトレイシー・ソーンの素晴らしいアルバムに出会った。そのどれもがボサノヴァやラテンの影響を受けており、そういう意味ではこの一年はブラジル音楽の年だったのだ。また邦楽においても、別のルート(野宮真貴の作品)からトワ・エ・モワを発見し、この洒脱なグループもやはりラテンなどの音楽性を内包していた。まぁ、少し広い視野で見ると、渋谷系ボサノヴァは繋がっているわけで完全に別ルートとはいえないが。それでも野宮真貴の作品によってボサノヴァ~バカラック~村井邦彦~ユーミン~小西康陽~フリッパーズ・ギターがスパっと一直線に繋がったのは気持ちがいい体験であった。
ソウル・ミュージックは相変わらず自分の中で良い位置を占めている。今年はやっとプリンスを聴いた。ceroの新譜によってラサーン・パターソンというアーティストも知った。BPMが160超えのロックンロールは少々つらくなり、BPM100程度のソウルがちょうど気持ちよくなってきた。